黒姫山麓に生きる

出会い

狩野さんが父、倉吉氏に感謝をしていることの一つは、奥さんの英子さんを発見したのがお父さんであることである。

「父が土方に出て行ったとき一緒に仕事をしていた”すばらしい娘さんがいる”というのです。さわやかな娘さんで・・・・」お菓子を持ってきた次女の弓ちゃんが、
「お母さんそれ本当?」
「本当よ」
「当時の私は”エーイ女なんかそばに寄るな!!”という風でした。」
「その蛮カラといったらすごいのよ。今だったらヒッピーみたいに肩まで髪を伸ばし、空手のけいこ着のボロボロのを着て・・・・。」

―奥さんが土方に出られたというのは?

「私はそのころ長野の女学校に通っていたのですが、そのころ道路工事の仕事がありまして、何メートル作るといくら、と結構いい収入だったのです。私の父がそれに出たのですが、なにしろ父は重いものは持ったことのない人ですから、仕事は思うようにできなかったのです。それで私が父の手伝いに学校を休んで行っていたのです。今でもその道路はありますが、私と父が作った所は少し傾いているのです。そこを通る度に思い出しますわ。」

―結婚なさったころもまだまだ大変な時代でしたね。

「私たちそのころよく『明後日がある』といっていたのよ。明日の食べ物がない事は分かっているの。だから明日はなんとかなるということは何もないのですから惨酷なの。だから『明後日がある』と言うと、期待があるように思えました。」
「そういう中で、暮らしは低くても思いは高しという生活がありましたな。」
「私たち結婚したとき五円のものを十円で買おうと誓ったのです。―表現が悪いけど分かって下さる―私たちこれで納得したわね。自分たちの人生を値切るまい、けちるまいということ、ね。」
「私は今”荒野の灯”の続編を書こうと思っています。それには家内との出会いを中心に書いてみたいと思っています。小野田さんが来て、まず第一に何と言ったかと言いますと、『お前の細君を連れてこい』というのです。この気持ちは山に住んだ者のみが知る気持ち、一つの慕情だと思います。小野田さんが『狩野お前は黒姫に30年、小野田はルバング島の山中で30年だったなあ』というんです。ジャングルを出なかったのは、自然がここにいろというからだ、と言っていました。」
「小野田さんすばらしいわよね。シャンとしていて、主人と比べたらどちらがルバングの山中にいたか分からないわね。うちの主人の方が野暮ったくて、でもとても単純なのよ。教会から帰ってくると『聖書って本当に深いものだ』って感心しながら話しをするの、子供みたいなとこがあるのよ。」
「雪の中で発育がとまってしまったんですよ・・・・(笑)。」

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